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主導のこういう農業発展は、タイ国内の食料消費の多様化にも対応したものであり、ひろい意味でとらえて「リカードの罠」をたくみにさけるものであったといってよい。更に注目しておくべき点は、こういう多角化によってデルタの農民層の経済力が大きく上昇して、タイの農村がタイの輸入代替工業に対して大きな拡大する国内市場を供給し続けたという事態である。農村の三種の神器であるオートバイ、テレビ、冷蔵庫、また農家の屋根の葺替えに使うトタン板、コメや肥料に使うポリプロピレン製の袋、化学調味料等々を農民は大量に購入している。経済発展・工業化には国内の大衆消費の高度化が不可欠の条件といえるが、タイでは農村・農家がこの大衆消費の高度化の重要な担い手であった。国民経済全体の発展において農業開発は、「リカードの罠」という議論が強調している食料供給の確保という役割だけでなく、農民所得を増大させて国内製造業に拡大する市場を提供するという重要な役割をもっているのである。タイにおいて、農業部門の成長はこういう経路を通して、国内経済の発展に非常に重要な貢献をしたことを強調しておく必要がある。

 

3) 農産物貿易自由化への各国の対応
さて、現在アセアン諸国は、WTOへの加入、ならびにアセアン自由貿易協定の形成、あるいはAPECでの貿易自由化へのとりくみといった流れのなかで、農産物の貿易自由化へのとりくみをせまられている。そこで、各国別にそのとりくみについて簡単に整理しておく。
農産物の輸出国であるタイには、農産物貿易自由化にともなう困難な政策上の問題はない。しかし、農業問題が発生したなかで農民の所得維持が大きい問題であることから、政府は、農民支援委員会を通じ農産物12品目の価格安定のための補助金を支出する政策を採用している。それと同時に1993年12月28日の閣議決定に基づき農業省は、農業、農業生産システムを再編する計画を実施することとなり、2010年までに総額659億バーツが支出されることになっている。米、キャッサバ、コーヒー、胡椒等、市場の見通しが暗い作目を他の有利な作目へと転換させて、タイ農業の生産力基盤を強化させようという訳である。
インドネシアでは、米の関税化への準備・対応として、BULOGの民営化方針と同

 

 

 

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